「この世にいるカラスが黒いことを証明して下さい」と言われたら?
世界中にいるカラスを1羽1羽調べる事は当然不可能ですが、
カラスを1羽も調べずに証明できる方法があるのです。
その方法は「ヘンペルのカラス」と呼ばれています。
カラスを調べずに、どうやって「カラスが黒い」ことを証明するのか?
今回は「ヘンペルのカラス」の謎を詳しく解説します
数学が苦手な方でも、イラストを使って分かりやすく解説するのでご安心下さい。
「ヘンペルのカラス」とは?
ヘンペルのカラスは、ドイツの科学哲学者であるカール・ヘンペルが1940年代に提起しました。
「全てのカラスは黒い」を証明する方法を示したもので、対偶論法(たいぐうろんぽう)を使えば「全てのカラスが黒い」ことをカラスを1羽も調べずに証明できると示したのです。
ヘンペルの主張は以下の通り。
「全てのカラスが黒い」ことを証明するためには「全ての黒くないものはカラスではない」ことを証明すればよい。
一見矛盾しているように感じることから、カラスのパラドックスとも呼ばれます。
(厳密にはパラドックスではない)
対偶論法って何ですか?ちょっとよく分からないです💦
これから詳しく説明します。
対偶論法(たいぐうろんぽう)とは?
対偶論法(たいぐうろんぽう)とは、数学的な証明方法の1つです。
数学には“命題”という概念があり「正しい&正しくない」を決める事柄です。
「AならばBである」のような表現で使われることが多く、これが正しいときは“正”、正しくないときは“偽”と呼びます。
数学の命題には以下の様な関係があります。
↑ある命題の“逆”と“裏”は正と偽が反対に、“対偶”では正か偽が同じになると言うこと。
例を挙げてみましょう。「人間なら生き物である」は正ですか?偽ですか?
これは正しいので「正」です。
正解です。では続いて「生き物なら人間である」これはどうでしょうか?
これは間違っているので「偽」です。人間以外にも、犬&猫、虫も生き物ですから。
正解です!では「生き物でなければ人間ではない」これはどうでしょうか?
「人間=生き物」なので「生き物でない=人間はありえない」ですよね…?なので「正」ですか?
正解です!
このように、命題には必ずこのような関係が成り立ちます。
ある命題とその対偶の「正」か「偽」は必ず一致します。
命題の正か偽を証明する方法が「対偶論法」であり、対偶論法を使えばカラスを調べずに「全てのカラスは黒い」と証明できる。
と言う理論を唱えたのがヘンペルだったのです。
なるほど〜でも、そんな上手くいくんですかね?
対偶論法を使った「全てのカラスは黒い」
では、ここから本題に入ります。
先ほど説明したように「全てのカラスは黒い」が正であるとき、その対偶である「全ての黒くないものはカラスではない」は必ず正になります。
↑「全ての黒くないものはカラスではない」が証明できれば「全てのカラスは黒い」を証明可能です。
「全ての黒くないものはカラスではない」ことの証明方法
世界中の全ての「黒くないもの」を集めて「カラスではない」ことを確認する必要があります。
ちょっとイメージがわきません…
それでは、分かりやすくするために少し極端な例で考えてみましょう。
この地球上には
- 人間
- りんご
- 黒猫
- 木
- カラス
しか存在しないとします。
「全ての黒くないものはカラスではない」を証明するには、黒くないもの、つまり人間、りんご、木を全て観察して、カラスではないことを確認すればいいのです。
そうすると残りの黒い物の中にカラスがいることが分かります。
カラスを観察しなくても、人間・りんご・木を観察してカラスがいないことを確認すれば、残りのものは全て黒いので、「全てのカラスは黒い」と証明できます。
結果「カラス」も「黒いもの」も調べることなく「全てのカラスが黒い」ことが証明できるのです。
なるほど。理屈はわかりました!
「ヘンペルのカラス」にはなぜ違和感があるのか?
ヘンペルのカラスの謎が解けても変な感じがします?黒いものも調べずにカラスが黒いことを証明できるなんて…
実はヘンペルも、この違和感を伝えるためにこの問題を提唱したのです。
この違和感の正体って、何なんでしょう?
・調べなければいけないものが多すぎる、つまり現実味がない
・カラスを確認せずにカラスが黒いことを証明できてしまう矛盾感
正しいけれど矛盾しているように思えたり、間違っているように感じるものを「疑似パラドックス」といいます。
「ヘンペルのカラス」の落とし穴
火星人は8本足である。これは「正」と「偽」どちらでしょうか?
火星人を見たことがないので分かりません…
そうですね。これは「正」と「偽」どちらにも当てはまりません。
ですが、対偶論法を使うと、宇宙に存在する8本足でないものをすべて調べて、火星人がいなければ「火星人は8本足である」と証明することができてしまいます。
あれ?本当だ…じゃあ、対偶論法ってそもそも間違いだったんですか?
いえ、そうではありません。対偶論法は100%成立しうるものにしか適用できないのです。
「命題」とは、正か偽かが必ず決まる事柄です。
数学的な、例えば「2で割り切れるならば偶数である(正)」「7は10より大きい(偽)」は必ず正か偽のどちらかなので、命題であり、対偶論法を使うことができます。
対して「火星人が8本足である」は「正」「偽」どちらでもないので、命題ではなく、対偶論法も使えないのです。
カラスについても、黒いものもいれば灰色がかったものもいるので、そもそも「カラスは黒い」が正か偽で決定できない、つまり命題でないと主張する意見もあります。
なるほど!曖昧なものに対偶論法は使えないのですね。
実は「白いカラス」もいる
少し補足をすると、実は「全てのカラスは黒い」というのは間違っています。
というのも、アルビノと言う変種が実在しているからであり、決して「カラスの全ての個体が黒い」訳ではないからです。
まとめ
あらゆることが厳密に定義されている数学の世界においても、矛盾が生じているように感じられる。
それが、ヘンペルのカラスの面白いところです。
人間の直感というのが、いかに曖昧で信用のならないものなのかがよく分かりますね。
その通りです。それが人間の弱みでもありますが、それと同時に面白いところでもあると思いませんか?
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